なぜ「ルールが先」なのか
生成AIは、文章の下書きや要約が得意な一方で、クリニックならではの注意点が3つあります。
- 個人情報:入力した内容がAIの学習に使われる設定のサービスもあります。患者さんの情報を入れてしまうと、取り戻せません。
- 誤り:AIはもっともらしい誤りを書くことがあります。数字や医学的な内容をそのまま使うのは危険です。
- 広告の表現:患者さん向けの文章には、医療法に基づく広告のルールがかかります。AIは「必ず」「最高の」のような表現を平気で書きます。
スタッフが各自の判断で使い始めると、この3つがばらばらに扱われます。最初に1枚のルールを決めておけば、院長が毎回確認しなくても、安心して任せられるようになります。
院内ルールに入れておきたい5つの項目
1. 使ってよいサービスを決める
院として使うサービスを1つか2つに決め、それ以外は業務で使わないことにします。選ぶときに必ず確認したいのが、「入力した内容が、AIの学習に使われないか」です。スタッフ個人の無料アカウントを業務に使うのは避けましょう。
いちばん確実なのは、法人向けのプラン(ChatGPTやClaudeのチーム・企業向けプラン、Google WorkspaceのGeminiなど)を使うことです。これらは、入力した内容が原則として学習に使われない扱いになっています。個人向けのプランを使う場合は、次の設定で学習をオフにできます。
| サービス | 設定の場所 | オフにする項目 |
|---|---|---|
| ChatGPT | 設定 → データコントロール | 「すべての人のためにモデルを改善する」 |
| Claude | 設定 → プライバシー | 「Claudeの改善にご協力ください」 |
| Gemini(個人のGoogleアカウント) | Gemini アプリ アクティビティ | アクティビティの保存 |
画面の名前や場所は、サービスの更新で変わることがあります。設定をオフにしても対象になるのはその後の入力だけで、過去の入力にはさかのぼりません。設定とあわせて、次の「入力してはいけない情報」のルールを必ず決めておきましょう。
どのサービスを選べばいいか、設定が合っているか不安なときは
クラウド事務長では、院に合ったAIサービスの選定から、学習をオフにする設定、院内ルールづくりまでお手伝いしています。お気軽にご相談ください。
相談する2. 入力してはいけない情報を決める
個人情報保護委員会は、生成AIに個人情報を入力する場合の注意点を公表しています。クリニックでは、まず次の情報を「入力しない」と決めておくのが現実的です。
- 患者さんの氏名・生年月日・連絡先・保険証の情報
- カルテの内容や検査結果など、診療に関する情報
- スタッフの個人情報(評価・給与・健康状態など)
- 公表前の経営情報
例文や下書きが必要なときは、「40代の患者さん」「受付スタッフ」のように、個人が特定できない形に置き換えて入力します。
3. 必ず人が確認する
AIが作った文章は「下書き」として扱い、外に出す前に必ず人が読み直します。特に、数字・日付・制度の説明・医学的な内容は、元の情報と照らし合わせてください。診断や治療方針の判断にAIを使わないことも、ルールに明記しておきます。
4. 患者さん向けの文章は、広告のルールを確認する
ホームページ、LINE、SNS、口コミへの返信など、患者さんに向けた文章には、厚生労働省の「医療広告等ガイドライン」がかかります。他院との比較、効果の保証、誇張した表現などは使えません。AIの下書きを使う場合も、公開前に院でガイドラインに沿っているかを確認する流れにしておきましょう。
5. 相談先と見直しの時期を決める
「これは入力してよいか」と迷ったときに聞く人を決めておきます。AIのサービスや公的なルールは変わるため、半年に1回など、見直す時期も決めておくと安心です。
院内ルールのひな形(そのまま使えます)
- 業務で使ってよい生成AIサービスは「◯◯」のみとする。
- 患者さん・スタッフの個人情報、診療に関する情報、公表前の経営情報は入力しない。
- AIが作成した文章は下書きとし、外部に出す前に必ず担当者が確認する。
- 診断・治療方針の判断にAIは使用しない。
- 患者さん向けの文章は、公開前に医療広告等ガイドラインに沿っているかを確認する。
- 判断に迷う場合は「◯◯(担当者名)」に相談する。このルールは半年ごとに見直す。
患者情報を使わずに始められる、最初の3つの使い道
ルールを決めたら、患者さんの情報を一切使わない業務から試すのがおすすめです。効果を実感しやすく、リスクも小さい3つを紹介します。
1. 求人原稿や院内文書の下書き
仕事内容・勤務時間・院の雰囲気などの箇条書きを渡して、求人原稿の下書きを作らせます。院内のお知らせや、スタッフ向けの連絡文にも使えます。一から書くより、手直しのほうがずっと早く進みます。
2. 院内マニュアル・手順書の整理
ベテランスタッフが口頭で説明している手順をメモに書き出し、AIに「新人向けの手順書に整えて」と頼みます。担当者が替わっても仕事が回る状態を作る、いちばん効果の大きい使い道です。
3. お知らせ文や口コミ返信のたたき台
休診のお知らせや、口コミへの返信のたたき台にも使えます。口コミ返信では、相手を特定できる情報や診療の内容に触れないこと、公開前に人が確認することを徹底してください。
1週間で始めるなら
- 使うサービスを1つ決め、学習に使われない設定にする。
- 上のひな形をもとに、院内ルールを1枚にまとめてスタッフに共有する。
- 「求人原稿」か「マニュアル」のどちらか1つで試し、使い勝手を確かめる。
いきなり全員で使い始めるより、1つの業務で小さく試し、うまくいったものから広げるほうが定着します。
この記事は、一般的な情報の提供を目的としています。個別の判断が必要な場合は、関係する公的資料をご確認のうえ、専門家にご相談ください。